1. プロダクトマネジメントの”罠”を回避しよう 2020/12/22 12月開催ProductZineウェビナー 株式会社アトラクタ 取締役CTO/アジャイルコーチ 吉羽 龍太郎 (@ryuzee)
2. 吉羽龍太郎 / Yoshiba Ryutaro アジャイル開発、DevOps、クラウドコンピューティング、インフラ構築自動化、、組 織改革を中心にオンサイトでのコンサルティングとトレーニングを提供。Scrum Alliance認定チームコーチ(CTC) / 認定スクラムプロフェショナル(CSP) / 認定 スクラムマスター(CSM) / 認定スクラムプロダクトオーナー(CSPO)。青山学院大 学非常勤講師 2
3. 株式会社アトラクタについて ✤ 社名:株式会社アトラクタ 英文表記:Attractor Inc. / https://www.attractor.co.jp ✤ 設立:2016年12月 ✤ 所在:東京都港区 ✤ 開発プロセスに関するコンサルティングやトレーニングを提供 ✤ アジャイル開発 / DevOps / チーム育成 / クラウドコンピューティング / ドメインモデリングなどが専門領域 3
4. 登壇 各種イベントでの登壇 オンサイト トレーニング コーチング アジャイル開発やDevOps に関するオンサイトコーチ ング アジャイル開発や組織づくり に関するオンサイト トレーニング 認定研修 認定スクラムマスター研修 Suitable for all categories 等の主催 business and personal 執筆・翻訳 技術書やドキュメントの 執筆や翻訳 などなど
5. 新刊のご紹介 ✤ 『プロダクトマネジメント ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』 ✤ メリッサ・ペリ著、拙訳 ✤ オライリー・ジャパン ✤ 2020/10/26 発売 ✤ 税込み2640円 ✤ 224ページ 5
6. 本日の話 ✤ ✤ プロダクトマネジメントの”罠”のうち、「ビルドトラップ」と呼ばれる罠について ✤ 「ビルドトラップ」とは何か? ✤ 「ビルドトラップ」の症状 ✤ 「ビルドトラップ」への対応 について概要を見ていきます。詳細で気になるポイントがあれば、是非書籍やネット の記事などで深堀りしてみてください 6
8. アウトプットとは? ✤ ✤ 辞書の定義(https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/output) ✤ an amount of something produced by a person, machine, factory, country, etc. ✤ an amount that a person, machine, or organization produces ✤ the amount of goods and services, or waste products, that are produced by a particular economy, industry, company, or worker アウトプットとは人や機械や組織が作った物の「かたまり」や「量」を示すもの 8
9. アウトプット/アウトカム/インパクト ✤ ✤ ✤ 開発、リリースしたプ ロダクトの機能 こなしたタスク 書いたコードの量… ✤ ✤ 顧客が抱える問題の解決 行動の変容… ✤ それによって組織に与え た影響(金銭的な)… 図は https://blog.crisp.se/2019/10/16/christopheachouiantz/output-vs-outcome-vs-impact より引用 9
10. アウトプット/アウトカム/インパクト アウトプットが最重要なわけではない ✤ ✤ ✤ 開発、リリースしたプ ロダクトの機能 こなしたタスク 書いたコードの量… ✤ ✤ 顧客が抱える問題の解決 行動の変容… ✤ それによって組織に与え た影響(金銭的な)… 図は https://blog.crisp.se/2019/10/16/christopheachouiantz/output-vs-outcome-vs-impact より引用 10
12. 価値交換システム $$$ ✤ 顧客やユーザーにとっての価値は、問題を解決したり要望やニーズを叶えること ✤ 本質的に、プロダクトやサービスそのものに価値があるわけではない ✤ ビジネスにとっての価値は、お金、データを始めとしたビジネスを活性化するもの ✤ この価値交換を継続しなければいけない 図は『プロダクトマネジメント ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』(オライリー)より引用 12
13. ビルドトラップとは? ✤ アウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして、行き詰まっている状況 ✤ 実際に生み出された価値ではなく、機能の開発とリリースに集中してしまっている状況 図は https://blog.crisp.se/2019/10/16/christopheachouiantz/output-vs-outcome-vs-impact より引用 13
14. ✤ ここでプロダクト開発の流れをおさらいしておきましょう 14
16. プロダクト開発の流れ 問題を設定しなおす ① 解決したい問題を 見つける 繰り返す ② 問題とソリューション の仮説を評価する ③ ソリューションを 作る ④ ソリューションを 評価する ⑤ スケールする 繰り返す ソリューションを設定しなおす デザイン思考など リーンスタートアップなど アジャイル開発 少人数 安価 大人数 高価 16
17. 注力しがちな領域(ビルドトラップの兆候) 問題を設定しなおす ① 解決したい問題を 見つける 繰り返す ② 問題とソリューション の仮説を評価する 注力しがちな領域 ③ ソリューションを 作る ④ ソリューションを 評価する ⑤ スケールする 繰り返す ソリューションを設定しなおす デザイン思考など リーンスタートアップなど アジャイル開発 少人数 安価 大人数 高価 17
18. 多くの機能は使われない いつも使う 7% よく使う 16% たまに使う 13% ✤ 米国スタンディッシュグループの調査 ✤ まったく使わない 45% ほとんど使わない 19% 2002年実施 ✤ 64%の機能はほとんど、もしくはまったく使 われない ✤ 一方でiPhone発売時にはテキストのコピー ペースト機能すらなかった 18
19. 多すぎる機能 https://blog.codinghorror.com/sometimes-a-word-is-worth-a-thousand-icons/ より引用 19
20. https://twitter.com/lukehannontv/status/794581557357015040 20
21. 機能が増えるとユーザー満足度は下がる Creating Passionate Users, Kathy Sierra, https://headrush.typepad.com/ より引用 21
22. 価値の思い込み アイデアで盛り 上がる 思った通りの結 果がでない… なんとか頑張っ てリリース 作ろうとすると 課題が山積み ビジネス アイデアを考える 計画をたてる 技術 開発を行う 都合の良い数 字だけ報告 ローンチ!! 年度末の報告 22
23. (参考) スタートアップ失敗の理由 ニーズがない 資金が尽きた 適切じゃないチーム 競合に負けた 価格・コスト 不親切な製品 ビジネスモデル欠如 稚拙なマーケティング 顧客無視 時期を逸した フォーカスの欠如 チームと投資家の不仲 ピボットが裏目 情熱の欠如 地理的拡大の失敗 投資家の関心が得られない 法律面での課題 ネットワークの未活用 燃え尽き ピボット失敗 23% 42% 29% 19% 18% 17% 17% 14% 14% 13% 最大の問題はニーズのないものを作ること 13% 13% 10% 9% 9% 8% 8% 8% https://www.cbinsights.com/research/startup-failure-reasons-top/ 8% 7% 0% 12.5% 25% 37.5% 50% 23
24. 人が欲しがるものを作れ Paul Graham(ポール・グレアム) Y-combinator 創業者 写真: https://bit.ly/3kpAVN6 CC BY 2.0 24
25. プロジェクトはプロダクト開発の一部 ✤ プロダクト開発の1要素としてプロジェクトがある ✤ プロダクト価値の最適化を実現するためにプロジェクトを行う ✤ プロダクトはプロダクトの軸で評価 しなければいけない ✤ プロダクトを「プロジェクトの軸」で評価 するとおかしなことになる プロジェクト プロジェクト プロジェクト プロジェクト プロジェクト プロジェクト プロジェクト プロジェクト プロジェクト プロジェクト プロジェクト プロジェクト プロダクト プロジェクト 25
26. プロダクトとプロジェクト プロダクト プロジェクト 予算 チームに予算が割り当てられる 決められたソリューションやスコープを 元に算出する 予算の範囲 全範囲。運用なども含む。 途中でピボットすることも 作り終わるところまで 人の割当 ずっと同じ部門で フェーズごとに違う部門のことも チームの存続期間 プロダクトが続く限りずっと 作り終わったら解散することも 製品価値の検証 継続的に検証 事前に詳細に検証 成功の基準 ビジネス価値の実現 予算と期限とスコープの達成 26
27. (再掲) ビルドトラップとは? ✤ アウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして、行き詰まっている状況 ✤ 実際に生み出された価値ではなく、機能の開発とリリースに集中してしまっている状況 図は https://blog.crisp.se/2019/10/16/christopheachouiantz/output-vs-outcome-vs-impact より引用 27
29. ビルドトラップの兆候 ✤ 約束されたロードマップ、長すぎるバックログ ✤ 競合他社との機能比較 ✤ 必要性の分からない機能 ✤ 生産性やベロシティに対する課題ばかりが表出 ✤ ステークホルダーの干渉 ✤ 権限のないプロダクトチーム、意思のないプロダクトチーム ✤ 利用状況などのメトリクスを取っていない ✤ 役に立たないKPI ✤ 使い切らなければいけない予算 ✤ ……(思いつくものを是非挙げてください!!) 29
30. ✤ ビルドトラップの対処に役立つかもしれない7つの項目を見ていきましょう ✤ 全部やらなければいけないわけではないです ✤ カイゼンは効果の高いところから1つづつやるのが鉄則 30
31. 1. 適切なプロダクトマネージャーを据える ✤ ミニCEO、ウェイター、プロジェクトマネージャーではない ✤ プロダクトマネージャーは「なぜ」に責任を持つ。「なぜ」から始める ✤ なぜこれを作るのか? ✤ どうやって顧客に価値を届けるのか? ✤ ビジネス目標を達成する上でどう役に立つのか? ✤ 会社のビジョンや目標、ビジネス、マーケットを理解する ✤ ユーザーに対する共感、人に影響を与えるスキル、技術者と会話できる程度の知識…… ✤ 実験から学習を続けるマインドセット 31
32. プロダクトを成功させる上での重要な質問 プロダクトマネージャーはこういう質問 に答えられなければいけない ✤ どうやって価値を判断するのか? ✤ マーケットでのプロダクトの成功をどのように評価するか? ✤ 適切なものを作っていることを確認するにはどうしたらよいか? ✤ プロダクトの価格とパッケージはどうやって決めるか? ✤ どうやってプロダクトをマーケットに投入するか? ✤ 自分たちで作るのとありものを買ってくるのでは、どちらがよいか? ✤ サードパーティのソフトウェアと連携するにはどうすればよいか? 『プロダクトマネジメント ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』(オライリー) p.42より引用 32
33. スクラムを回すだけにフォーカスしない 33
34. スクラムを回すだけにフォーカスしない プロダクトバックログ管理・供給マシーンでは不十分 34
35. 2. 適切なチーム構成にする ✤ ✤ バリューストリームを最適化するようにチームを構成する ✤ 問題発見〜目標の設定〜アイデアの創出〜デリバリーまでの一連の流れ ✤ 顧客への価値の運搬を最適化するには、どんな構成にすればよいかを考える コンポーネントチームにしない ✤ 受け渡し(外部依存)の回数が増えれば価値の運搬はどんどん遅くなる ✤ チームの「稼働率」の最適化への関心は、アウトカムが達成できていなければ無意味 ✤ チームは自律的で、自分たちで意思決定できなければいけない ✤ 新しいことを試して失敗できる安全な環境 35
36. 3. 適切な戦略を組織に行き渡らせる ✤ 戦略とは、詳細な計画のことではない ✤ ✤ 詳細な計画にこだわると、ガラクタを大量に作ることになる => ビルドトラップ 戦略とは、意思決定を助けるフレームワーク ✤ 戦略とは実行可能な意思決定のフレームワークであり、現在のコンテキストとの整 合性を保ちながら、現在の能力の制約のもとで、望ましいアウトカムを達成するため の行動を可能にするものである(『The Art of Action』 ) ✤ 毎年ころころ変わるようなものでもない(そうなっているなら単なる計画) 36
37. 戦略展開 ✤ プロダクト組織では、4つのレベルの戦略展開が必要になることが多い ビジョン 5~10年でどうなりたいか、 顧客にとっての価値、マーケットで のポジション、ビジネスがどうなっているか CEO / シニアリーダーシップ 戦略的意図 ビジョンを実現する上で立ちはだかっているビジネス上の課 題は何か シニアリーダーシップ / ビジネスリード プロダクトイニシアティブ プロダクトの観点で課題に取り組むには、 どんな問題を扱え ばよいか プロダクトリーダーシップチ ーム オプション 問題を解決して目標を達成する別の方法はないか プロダクト開発チーム 『プロダクトマネジメント ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』(オライリー) p.84 より引用 37
38. プロダクトのカタ 戦略策定と展開 01 02 実行 03 04 方向性の理解 現状の分析 次の目標を設定 ステップの選択 企業のビジョンと 戦略的意図 目指しているもの の現状 プロダクトイニシ アティブ 問題の探索 プロダクトイニシ アティブ イニシアティブ/ プロダクトの現状 オプション目標 ソリューションの 探索・最適化 『プロダクトマネジメント ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』(オライリー) p.86をもとに作成 38
39. 4. ソリューションの前に問題を理解する ✤ 問題を根本的に理解していなければ、適切なソリューションは作れない ✤ 人間は基本的にソリューションを考えるほうが得意で、優先しがち ✤ 「機能がない」のは問題か? ✤ ユーザーはプロダクトが欲しいのではなく、自分の課題やニーズを解決したいだけ ✤ 建物の外に出ろ 39
40. 問題を解決するのに20日かけられるなら、 19日は問題の定義に使いたい Albert Einstein 40
41. ソリューションではなく 問題に恋をしろ。 そうすれば、 あとのことはついてくる Uri Levine イスラエルの起業家 写真: https://bit.ly/2HWuXoC CC BY 2.0 41
42. 5. ソリューションを探索する ✤ ✤ 学習のために実験する ✤ 仮説が正しいかどうかを証明するために、なるべく素早く行う ✤ 最終的には作ったものは捨てる(と思っていたほうが実験しやすい) いろいろな実験方法 ✤ コンシェルジュ(顧客に代わって手作業でやってみる) ✤ オズの魔法使い(裏側に人がいる) ✤ コンセプトテスト(コンセプトをデモしたり、ランディングページを用意したりする) 42
44. 創業時、本当に靴をオンラインで買ってくれるかを明らかにするため ブログツールを使ってサイトを立ち上げ、 注文のたびに自分で靴を買いに行って発送した(オズの魔法使い) 44
45. https://techcrunch.com/2011/10/19/dropbox-minimal-viable-product/ DropboxはいかにしてMVPを作ったか(コンセプトテスト) 45
46. 6. 適切な指標を定めて活用する ✤ プロダクトやビジネスの健全性を示す指標を追跡する ✤ ユーザー数、PVなどは虚栄の指標でビジネスの意思決定の役に立たない ✤ 完成した機能の数、ストーリーポイントなども同じ(生産性の指標にはなるかも) ✤ 事実や数字にコンテキストや意味を加える ✤ 海賊指標(AARRR)、HEARTフレームワークなど ✤ プロダクトごとに見るとよい指標は違う ✤ チームが目指す方向を示すNorth Star Metricを決めるとよい ✤ データを計測できるツールを用意しておく 46
47. 7. 組織をプロダクト主導にする ✤ 顧客中心主義を体現する ✤ プロダクトの成功は実験と学習から。安全に学習できる環境を作る ✤ 実験は究極のリスクマネジメント ✤ アウトカムに着目したコミュニケーション ✤ 古い予算制度からの脱却(投資モデルへ) ✤ 適切な報酬やインセンティブ制度(アウトプットで評価するとビルドトラップ) ✤ (とはいえ、現場から変えていくのは難しいし、時間はかかる) 47
48. 失敗を受け入れる ✤ 「実験はその性質からしても失敗しやすいものですが、それでもやるべ きだと思います。何十回も失敗するかもしれませんが、一つ大きな成 功をすれば十分取り返せるのですから」 ✤ 「継続して実験を行わない会社や、失敗を許容しない会社は、最終的に は絶望的な状況に追い込まれます。(略)一方、常に賭け続けてむしろ賭 け金を引き上げていくような会社は、実は社運そのものを賭けるような ことはしないので、勝ち残ります」 ✤ 「失敗は、当社が他社と一線を画している分野だと思います。当社は、お そらく世界一失敗に適した場所です。(略)失敗と革新は対の関係にあ り、切り離すことはできません」 『ベゾス・レター アマゾンに学ぶ14ヵ条の成長原則』(すばる舎)より引用 48
49. まとめ ✤ ビルドトラップとは機能の開発やリリースに集中し、アウトプットで成功を計測しようとして行き詰まっ ている状況 ✤ ビルドトラップを回避するためにできることはたくさんある ✤ 適切なプロダクトマネージャー ✤ 適切なチーム構成 ✤ 戦略を組織に行き渡らせる ✤ ソリューションの前に問題を理解する ✤ ソリューションを探索する ✤ 適切な指標を定めて活用する ✤ 組織をプロダクト主導にする 49
50. ぜひお買い求めください!! ✤ 『プロダクトマネジメント ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』 ✤ メリッサ・ペリ著、拙訳 ✤ オライリー・ジャパン ✤ 2020/10/26 発売 ✤ 税込み2640円 ✤ 224ページ 50