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Yoshiba Ryutaro
- 2026/05/12 15:09
- Scrum
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Tidy First? ―個人で実践する経験主義的ソフトウェア設計
- 著者/訳者:Kent Beck、 吉羽 龍太郎、 永瀬 美穂、 細澤 あゆみ
- 出版社:オライリー・ジャパン
- 発売日:2024-12-25
- 単行本(ソフトカバー):164ページ
- ISBN-13:9784814400911
- ASIN:4814400918
脳に収まるコードの書き方 ―複雑さを避け持続可能にするための経験則とテクニック
- 著者/訳者:Mark Seemann、 吉羽 龍太郎、 原田 騎郎、 Robert C. Martin
- 出版社:オライリー・ジャパン
- 発売日:2024-06-18
- 単行本(ソフトカバー):312ページ
- ISBN-13:9784814400799
- ASIN:4814400799
Transcript
1.
アジャイルの 「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 〜その裏側にある原則を読み解く〜 2026/5/12 fi 株式会社アトラクタ / Certi ed Scrum Trainer (CST) 吉羽 龍太郎 (@ryuzee)
2.
自己紹介 吉羽龍太郎 / Ryutaro YOSHIBA / ryuzee ▸ 株式会社アトラクタCTO /アジャイルコーチ / 翻訳者 ▸ Scrum Alliance 認定スクラムトレーナー (CST) 認定チームコーチ (CTC) ▸ Microsoft MVP (DevOps) ▸ X(Twitter): @ryuzee ブログ: https://www.ryuzee.com/ 2
3.
自己紹介 最新書籍紹介(買ってください!!) 3
4.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 こんな経験ありますか? ▸ 「ベロシティを上げろ」とチーム外のステークホルダーに言われたことがある ▸ メンバーの時間の50%は別の仕事に使っている(兼務)というチームで仕事をしたことがある ▸ ステークホルダーの一言で、プロダクトやスプリントの中身がひっくり返ったことがある ▸ こうした状況に、何が共通しているのか?どう対処していけばいいのか考えていきましょう 4
5.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 そもそもベストプラクティスとアンチパターンとは? ▸ ベストプラクティス ▸ 多くの現場で「これをやれば良い」とされ、推奨されているやり方 ▸ 例:デイリースクラム、ベロシティの計測、スプリントレトロスペクティブ ▸ アンチパターン ▸ 多くの現場で「これをやると失敗する」とされる、典型的に問題を引き起こすやり方 ▸ 例:進捗報告会化したデイリースクラム、兼務、ステークホルダーの意見の丸呑み 5
6.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 ベストプラクティスとアンチパターンの現実ともっと大事なこと ▸ ベストプラクティスは「ある文脈で」のベスト。あなたの現場のベストとは限らない ▸ アンチパターンを避けたからといって成功するわけでもない ▸ 重要なのは、その背景にある「なぜそうするのか」「なぜそれがうまくいかないのか」を理解すること 6
7.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 今日の内容 ▸ 3つの題材をもとに、ベストプラクティスとアンチパターンの裏側にある原則を読み解いていきます ▸ ベロシティ ▸ 兼務 ▸ ステークホルダー 7
8.
「ベロシティ」で見る ベストプラクティスの罠
9.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 そもそもベロシティとは ▸ 1スプリントで「完成」したプロダクトバックログアイテムのストーリーポイントの合計値 ▸ (例)3ポイント、5ポイント、5ポイントのプロダクトバックログアイテムが完成=13ポイント ▸ 完成しなかったものは計算に入れないし、部分的な計上などもしない ▸ ストーリーポイントは相対見積りの単位(絶対時間ではない) ▸ スクラムガイドでは、ベロシティもストーリーポイントも定義されていない ▸ 多くの現場で使われるが、それは「ベストプラクティス」であってスクラムの必須要素ではない 9
10.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 ベロシティはなぜ生まれたのか ▸ スクラムの土台は経験主義(アジャイルも同じ) ▸ 「経験主義では、知識は経験から生まれ、意思決定は観察に基づく」 ▸ 透明性を保ち、それをもとに検査して、適応していく ▸ ベロシティはチーム自身が現状を把握し、計画を立てるための道具 ▸ 今スプリントでどれくらい完成できそうかの予測 ▸ 中長期のリリース計画 ▸ チーム自身の改善のヒント ▸ すなわち、ベロシティは「結果として現れる数字」 ▸ チーム自身のための道具であって、外部報告の道具ではない 10
11.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 「ベロシティを上げろ」と言われたら何が起きるか ▸ ベロシティを2倍にする、一番簡単な方法は? ▸ すべての見積りを2倍にすればいい ▸ もちろん無意味 ▸ グッドハートの法則 ▸ 「指標が目標になったとき、それは良い指標ではなくなる」 ─ チャールズ・グッドハート ▸ 指標を目標にした瞬間、観察の役目を失う ▸ これは経験主義への裏切り 11
12.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 ここまでの話を踏まえたベロシティの良くない使い方のまとめ ▸ 1. ベロシティを「生産性」の指標として扱う ▸ 2. 数字の上下に一喜一憂する ▸ 3. 目標ベロシティを設定し、それに届かないことを問題とみなす ▸ 4. ベロシティを誰かに報告する ▸ 5. スクラムチームや個人を評価するために使う ▸ 6. 複数チーム間で比較する ▸ 全部やめろ 12
13.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 13 ベロシティは物的生産性 ▸ 生産性 = 産出 ÷ 投入 ▸ 物的生産性:生産したものの数や量 ▸ 付加価値生産性:生産したものが生み出した付加価値 ▸ ベロシティは「物的生産性」寄り ▸ アジャイル/スクラムが目指すのは付加価値 ▸ たくさん作っても、価値が増えるとは限らない ▸ 「重要でないものの正確な尺度よりも、価値あるもののあいまいな尺度の方がいい」 ジム・ハイスミス ▸ 「測定できないものは管理できない、と考えるのは誤りである。これは代償の大きい誤解だ」 エドワーズ・デミング
14.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 ベロシティから学ぶこと ▸ ベロシティそのものは悪くない ▸ しかし、何のための数字かを見失った瞬間に毒になる ▸ ベストプラクティスは「ある原則の表現形」(ベロシティであれば経験主義、透明性、検査、適応)にすぎない ▸ 形だけ真似ても、原則を理解していなければ別の問題に化ける ▸ チームは「何を」「誰のために」観察や計測しているのか?を問わなければいけない 14
15.
「兼務」で見る アンチパターンの罠
16.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 組織でよくある兼務 ▸ 「Aプロダクトに50%、Bプロダクトに50%」 ▸ マネジメント層から見ると稼働率100%で問題なし ▸ でも現場の仕事はどれも終わらない、責任の所在もよくわからない ▸ Bプロダクトが炎上して稼働が増えた結果、Aプロダクトの稼働が減って結果が出なかったら??? ▸ 形だけ見たら「効率的なリソース配分」に見える。でも色々問題が起きる…… 16
17.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 なぜ兼務が起きるのか ▸ 稼働率信仰:人を遊ばせない=正義(だと思っている……) ▸ 固定費としての人件費感覚 ▸ 組織のサイロ:各部門が自分のリソースを離さない ▸ つまり、マネジメント側にとっての局所的な合理性 ▸ スクラムガイドは兼務を明示的に禁止していない(が、お墨付きを与えているわけでもない) 17
18.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 兼務は何を壊すのか ▸ 集中を阻害する ▸ 集中はスクラムの5つの価値基準のひとつ ▸ 50%稼働の人が2人いても、1人が100%稼働するのには敵わない ▸ コンテキストスイッチで実作業時間が消える ▸ スクラムではイベントに20%程度の時間を使う。つまり20-30%アサインは完全に無意味 ▸ チームの境界が曖昧 ▸ チームの関係性や心理的安全性も育たない ▸ 責任が分散する ▸ 全員が「主担当じゃない」と思う(かもしれない) 18
19.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 「兼務をやめろ」で終わらない ▸ 完全専任が現実的に難しい場面があるのは事実 ▸ 大事なのは「本質を守る」こと。この文脈だと「集中」 ▸ 具体的にどうするか ▸ 時間で割らずに期間で割る(今週はA、来週はB) ▸ 専任メンバーと、支援系や専門職系の限定的関与を区別する(全員をフルメンバーにする必要はない) ▸ コアタイム制で集中時間を確保する ▸ もちろん兼務をなくす組織的な努力をする ── 兼務は経営課題 ▸ アンチパターンを避けるというのは「本質的に守るべきものを守る」こと ▸ 0/1の議論(「うちの会社は仕方ない」)で終わらせない 19
20.
「ステークホルダーの意見の丸呑み」で見る アンチパターンの罠
21.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 ステークホルダーの意見の丸呑み ▸ プロダクトバックログがステークホルダーからの要望や命令の寄せ集め ▸ プロダクトオーナーが御用聞き ▸ スプリントレビューのフィードバックは「次のスプリントで対応します」 ▸ 「言われたから作る」が常態化 ▸ 緊急の割り込み対応の常態化 21
22.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 プロダクトオーナーが弱いと何が起きるか ▸ プロダクトバックログの並び順が「声の大きい人の順」になる ▸ プロダクトの軸がぶれる ▸ 結果的に ▸ 顧客の問題を解決できない、役に立たないプロダクトができあがる ▸ なぜ作ったか分からないので、そこから学習することもない ▸ スクラムチームに学習性無力感が蔓延する 22
23.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 アジャイルソフトウェア開発宣言を読み直す ▸ 「契約交渉よりも顧客との協調を」 ▸ 「顧客」=ステークホルダー ▸ 協調 ≠ 言いなり ▸ 協調 = 一緒に考えること ▸ ステークホルダーは情報源であり、意思決定者ではない ▸ プロダクトの意思決定はプロダクトマネージャーやプロダクトオーナーの責任 ▸ それを丸投げするのは協調ではなく責任の放棄 23
24.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 「言われたものを作る」からの脱却 ▸ ステークホルダーに聞くべきこと ▸ 何を解決・達成したいのか? ▸ それはなぜか? ▸ 解決・達成できないとどんなマイナスがあるのか? ▸ 「どう実現するか」「そのために何を作るのか」は聞いてもよいが、額面通り捉えない ▸ 何を作るかはスクラムチームが考える話 ▸ もっと良いやり方が見つかることもある ▸ 健全な衝突がなければ、無意味なものを作ってしまう 24
25.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 プロダクトオーナーはNOを言わなければいけない ▸ やりたいことは無限にあるが、人や時間は有限 ▸ プロダクトオーナーはNoを言うのが仕事 ▸ ただし「Noの言い方」は相手によって変わる ▸ ステークホルダーの影響力と関心度によって、どう付き合うかは変わる ▸ Noを言えないなら、プロダクトオーナーではなくステークホルダーをやっていればいい ▸ 自分以外でできる仕事は手放す。それができないならプロダクトオーナーになってはいけない 25
26.
背景にある原則
27.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 27 3つの例を「原則」で読み直す 題材 何が壊れていたか 背景にある原則 ベロシティの誤用 指標を目標にした 経験主義 兼務 フローと集中を阻害した フロー / システム思考 ステークホルダーの意見丸呑み 価値判断を放棄した 価値駆動 / 顧客との協調 ▸ プラクティスは原則の「ある表現形」にすぎない ▸ 原則がブレなければ、表現の形はいくらでも作り直せる
28.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 原則1 ── 経験主義 ▸ スクラム/アジャイルの土台は、経験主義 ▸ 「知識は経験から生まれ、意思決定は観察に基づく」 ▸ 経験主義を支える3本柱: 透明性・検査・適応 ▸ 透明にしていないものは検査できない ▸ 検査しても適応しないなら、それは儀式 ▸ 数字や指標は検査の道具であって、目標ではない 28
29.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 原則2 ── フロー / システム思考 ▸ リーン思考で言うところの「価値の流れ」(フロー)を止めない ▸ 部分の稼働率を上げる ≠ 全体の成果が上がる ▸ 兼務もベロシティ目標化も、局所では合理的に見える ▸ 局所最適は全体最適を保証しない ▸ システム全体で見ないと、必ずどこかにしわ寄せがいく ▸ チームの仕事の流れがどこで止まっているのかを確認する 29
30.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 原則3 ── 価値駆動と顧客との協調 ▸ アジャイルが目指すのは価値の実現(付加価値生産性) ▸ たくさん作ること、忙しいことは価値ではない ▸ 「言われたから作る」≠「価値があるから作る」 ▸ 顧客との協調 = 言いなりではなく、一緒に考えること ▸ 価値判断を放棄したら、それはもうアジャイルではない 30
31.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 自分たちの状況を5つのポイントで点検する ▸ 1. 何の価値を、誰に届けるためにそれをやっているか? ▸ 2. 何を透明化し、何を検査しているか? ▸ 3. そこから学び、適応する仕組みはあるか? ▸ 4. 全体のフローは止まっていないか? ▸ 5. 自分たちで決めて、変えられるか? ▸ これらがプラクティスを評価するときの軸になる 31
32.
プラクティス適用の考え方
33.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 守破離 ── プラクティスを仮説として扱う ▸ 守破離 ▸ 守:最初はカタ通りにやる(理由があるから広まっている) ▸ 破:慣れて文脈が見えてきたら、変えていい ▸ 離:原則ベースで、自分たちの形を作る ▸ 仮説 → 導入 → 観察 → 改善 or 廃止のループを回す ▸ 注意すべきこと ▸ いきなり「守」を飛ばして「破」をやる人が多いが、それは単なる自己流 ▸ 期待する効果は得られず、形だけになるリスクを抱えている。そんなのはやらないほうがマシ 33
34.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 プラクティスをやめる、プラクティスを元に戻す ▸ ベストプラクティスを導入しても、効果がなければやめる ▸ アンチパターンに片足を突っ込んでも、戻ればいい ▸ 「破」のつもりが本質を捨てているケースは多い ▸ 違和感を覚えたら、いったんカタに戻る勇気を持つ ▸ 短い間隔で仮説検証のループを回し続ける限り、間違っても取り戻せる ▸ 「後戻りできない」という制約は、時間の浪費と大きな失敗につながる 34
35.
アジャイルの「ベストプラクティス」と「アンチパターン」 本日のまとめ ▸ プラクティスは目的ではなく手段 ▸ ベストプラクティスは出発点であり、ゴールではない ▸ アンチパターンは警告であり、絶対禁止ではない ▸ 背後にある原則に沿って自分たちのやり方を点検する ▸ 経験主義 ▸ フロー / システム思考 ▸ 価値駆動と顧客との協調 ▸ プラクティスは仮説。原則を理解して、現場で検証・適応する ▸ 仮説 → 導入 → 観察 → 改善 or 廃止のループを回す 35
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